難を転じる縁起物「南天」
2024年11月30日
こんにちは。愛知県豊田市の中澤⽯材店です。
実りの秋、さまざまな植物が果実をつけますが、秋から冬にかけては、近所のお庭や公園でいろいろな赤い実を見かける機会が増えます。その中でも、11月以降の寒くなってから見かけるポピュラーな赤い実に「南天(なんてん)」があります。
南天は、平安時代に薬用、観賞用として中国から伝来しました。「難を転ずる」の語呂から縁起のいいものとされ、戦国時代には、妊婦が安産を祈願して床の下に敷いたり、武士が出陣の前に床に挿して勝利を祈願したとか。
また、正月の掛け軸には水仙と南天を描いた「天仙図」が縁起ものとして好まれたようです。江戸時代になると、南天はますます縁起木として尊ばれるようになり、厄除け・魔除けとしてどこの家にも植えられるようになりました。
漢方では、咳止め効果の高い生薬として古くから利用されており、現代ではのど飴などにも使われているのは有名な話ですね。
お祝い事で食べるお赤飯に南天の葉を添える習わしは、単に彩りや縁起物としてだけではなく、葉に解毒作用や殺菌・防腐作用があることから取り入れられた先人の知恵です。
今でも縁起物や厄除けとしてお正月飾りに使われたり、松や竹とともにお正月の生け花として玄関や床の間に飾られたりする南天。お正月には忘れずに飾り、難を転じて、福を呼び込みたいですね。
伊東忠太の建築に棲まう動物たち
2024年10月31日
こんにちは。愛知県豊田市の中澤⽯材店です。
行動や好奇心が活発になる秋になりました。今回は芸術の秋にちなみ、11月生まれの建築家・伊東忠太について紹介します。
生まれは、江戸末期の1867(慶応3)年。明治、大正、昭和にかけ、建築史家、建築家として活躍しました。
ご存知でない方でも、代表作の「築地本願寺」については知っている方も多いのではないでしょうか。
日本のお寺の外観とは大分雰囲気の違う、ドームがついた特徴的な外観が印象的なこのお寺は、インドの古式仏教建築を元にした意匠をもち、今でも異彩を放っています。ほかにも湯島聖堂、大倉集古館、一橋大学兼松講堂など、多くの建築物を手がけています。
その様式は、日本の伝統的建築、西洋風、インド風まで様々ですが、共通点を挙げると、建物の内外に動物や幻獣たちを棲まわせていること。忠太は幼い頃から妖怪好きで、中国やインドを旅した際にも建物に飾られた幻獣たちに惹かれていたといい、「妖怪研究」という著書があるほどです。
幻獣たちの多くは石造りで、当時の石工が担ったものでしょう。翼のついた獅子といった、不思議な生き物たちが描かれた図面に、石工たちはさぞ戸惑ったのではないでしょうか。彼らが試行錯誤しながら、つくり出していく様子が目に浮かびます。
伊東忠太の想像力や石工たちの技術力を伝える幻獣たちを、今も間近に見て触れることができるのも、石像ならではの魅力ですね。
終活シリーズ「生前整理のススメ」
2024年9月30日
こんにちは。愛知県豊田市の中澤⽯材店です。
10数年ほど前から、よく耳にする言葉となった「終活」。前回は残された家族・親族に負担をかけないように準備をする活動の一つとして、「エンディングノート」について取り上げました。今回は、現在の身の回りにあるものを整理していく、「生前整理」について取り上げます。
「生前整理」とは、元気なうちに自分の持ち物を整理しておくこと。物にあふれた故人の部屋や家を片づけるのはとても大変な作業です。整理が済んでいれば、家族や身近な人の負担を減らすことになりますよ。
まずは本やCD、衣服、日記、写真などの身の回りの物について取り掛かりましょう。すでに不要なものは処分。それ以外のものは、「死後に処分」「死後に誰かに譲る」に分類しておきます。家族に協力と理解を得ながら整理できれば、なお良いですね。
もっとも大きな整理と言えば…財産の整理です。
まずは、エンディングノートの回でも触れたように、不動産や預貯金、生命保険や貴金属などの財産を把握し、ノートなどに記録しておきましょう。そのうえで「一部を寄付したい」等、希望がある場合は遺言書を作成しておくと安心です。
自分で書くこともできますが、書き方は法律で定められているので専門家に依頼するのをおススメします。上に挙げたように、専門分野は様々ですので、目的に合うところを選びましょう。
終活シリーズ「エンディングノート」
2024年8月31日
こんにちは。愛知県豊田市の中澤⽯材店です。
「終活」という言葉が広く聞かれるようになりました。その背景には、人生の最期は自分の望むように迎えたい、周囲に迷惑をかけないようにしたいと考える人が増えていることがあるのでしょう。
「終活」の一つとして、今回は「エンディングノート」について取り上げます。
「エンディングノート」とは、人生の最期を迎えるにあたり自分の希望を記しておくものです。 たとえば延命治療についての考え、葬儀形態の希望(呼んでほしい人のリスト)、財産の明記(所有している土地や家屋、口座名や通帳と印鑑の場所)など、家族が落ち着いて供養の場を設けられるような情報を主に記載しておきましょう。
ただ、法的に有効とされる「遺言書」とは違いますのでご注意を。相続に関わることなど、将来の家族関係に大きく影響しそうな事柄については、エンディングノートには残さず、法的な手続きを踏んだ「遺言書」に記しましょう。
ノートは書いて終わりではなく、役立ててもらうことが目的です。いざというときに読んでもらえるように、信頼できる人に保管場所を伝えることも忘れずに。加えて、自分の考えを、折りに触れ周囲に話しておくとよいでしょう。そうすれば、ご自分の亡き後に残されたノートの内容も伝わりやすいですよ。
墓地で実感「焼け石に水」
2024年7月31日
こんにちは。愛知県豊田市の中澤⽯材店です。
そろそろ夏休みの時期、お盆ももうすぐですね。
お盆はご先祖様の魂が家に帰ってくると言われており、お墓参りを計画されている方も多いのではないでしょうか。ご先祖様へ日頃の感謝を伝えたり、家族のつながりを再認識する大事な行事ですが、この時期は夏の真っ盛り。炎天下での時間をかけたお墓参りや掃除をすれば熱中症になりかねません。
なにより墓石は触れてやけどしそうな熱さで、柄杓で水をかけてもすぐに蒸発してしまいます。まさにことわざの「焼け石に水」状態です。墓石がこれほど熱くなる理由は、石の蓄熱性にあります。灼熱の太陽の光を浴び続けて蓄積された石の熱はなかなか冷めないので、お墓参りは太陽が上がりきらない“午前中”に行くのがオススメです。
一方で、夏は草がどんどん生い茂ります。久しぶりに行ったらお墓が薮になっていた、なんてことも。こうなると少しくらい草取りをしても、これまた「焼け石に水」です。だからといって夏場にたびたび掃除に行くことも難しいですよね。ならば一度のお掃除を効率的に行いましょう。
石屋からのアドバイスとしては、掃除が手際良くできるように草取の道具など、専用の道具を持参すること。日除けとなる長袖・長ズボンの着用や水分補給などの暑さ対策も忘れずに。ちなみにお掃除は、前に進みながら行いましょう。後ずさりしながらの作業は、灯篭などに気づかずぶつかる可能性があるので危ないですよ。
夏のお墓参りは準備万端にして、効率よく短時間で「焼け石に水」に対処しましょう。
富士山の美しさの秘密は“石”にあり
2024年6月30日
こんにちは。愛知県豊田市の中澤⽯材店です。
7月の初旬、富士山の山開きが行われます。富士山は日本一高い山であるとともに、その円すい形、左右対称という形状の美しさにより、日本の象徴ともされるとても人気の山です。コロナ明けは、多くの外国人観光客も登山に来るなど、大変な混雑ぶりで話題になっていますね。
なぜ富士山はあのような形になったのでしょう。その理由の一つは、富士山をつくる玄武岩にあります。富士山は4階建ての構造になっていると言われています。富士山は火山であり、数十万年もの間、噴火を繰り返し、1万年前にようやく今のような姿になりました。
数十万年前の「先小御岳」「小御岳」までは粘性の強い安山岩やデイサイト、玄武岩からできており、形も今の富士山とは違っていたそうです。
10万年前に活動を開始した新富士の原型である「古富士」、1万年前から現在表面に見えている「新富士」となって現在の富士山の形になりますが、これらは玄武岩でできています。重要なのは、玄武岩マグマの「粘性が低い」という性質。「古富士」以降、つまり約10万年にわたり噴出し続けてきた玄武岩のマグマは粘り気が弱く流れやすかったため、裾野まで薄く広がり、徐々に今の美しい富士山を形づくってきたのです。
我々石屋に馴染み深い玄武岩といえば、六方石という石があります。これは玄武岩の溶岩が冷却し収縮する時に出来た、断面が五角形や六角形の柱のような細長い石材です。
その独特な色合いと形状の面白さから、庭石などに使われています。灯篭として加工されたり、おしゃれな彫刻を施されたオブジェとしても作られていますので、名前は知らなくともどこかでご覧になられているかもしれません。(当店でもご案内できます。ご興味がありましたらお問合せ下さい。)
富士山の景観や、六方石といった、人間の想像力を超えた絶妙な形を作り出す地球の力には驚かされますね。
硬~い花崗岩にも弱みあり!?
2024年5月31日
こんにちは。愛知県豊田市の中澤⽯材店です。
しとしとと雨が降り続く梅雨。この時期に新緑が鮮やかさを増すように、雨に洗われた墓石の姿もまた美しいもの、土砂降りの雨でもなんのそのです。
日本の墓石に使われていることの多い“花崗岩”は、鉱物の中でもとくに硬い石英を多く含んでいるため、様々な石に比べて風化しにくいと言われています。こんなに硬い石は、何にでも強いと思われるかもしれません。
ところで、木曽川の名勝、寝覚の床に代表される花崗岩特融の地層の中には、自然の景観にも関わらず、まるで人工的に作り出されたような切り立った崖と平らな面で出来た大きな箱を並べたような不思議な地形があります。
これは、木曽川の激流が花崗岩の岩盤を長い年月にわたって浸食してできたものですが、ここから、花崗岩には、3方向の直行する割れ目ができやすいという特性(=弱点)が見えてきます。
私たち石屋は、こうした石の割れやすい方向を「石目」と呼んでいます。かつて人力だけで巨大な石を切り出せたのは、この「石目」を昔の石工達も知っていたから。
大きな石を割るには、まず一直線状にいくつかの穴を開け、「セリ矢」と呼ばれる金具を差し込みます。矢の頭を叩くうちに徐々にヒビが入り、あるとき一気に割れます。機械化が進み手作業は少なくなりましたが、石の産地で開かれるイベントなどで実演があると、見事な石の割れぶり(?)に歓声が上がるほどです。
逆に加工・施工の時は角が欠けないようにとても気を使います。石屋の仕事は豪胆さと繊細さの両面が求められます。みなさんもお墓参りの時は、墓石を傷つけないようにお気をつけくださいね。
小石に秘められた生命誕生の歴史
2024年4月30日
こんにちは。愛知県豊田市の中澤⽯材店です。
2020年12月、小惑星探査機「はやぶさ2」のカプセルが、出発から6年の歳月を経て地球に帰還しました。予定通りカプセルを回収することに成功、中には小惑星「リュウグウ」で採取された小石や砂が入っており、プロジェクトのミッション成功が大きな話題となりました。地球から約3億キロ先にある小さな星にあった石のかけら、実は私ども石屋としても興味深いものです。
太陽系※1が誕生したのは遥か46億年前のこと。ガスや塵が集まって太陽が生まれた後、「リュウグウ」のような小惑星が生まれます。それが衝突・合体を繰り返して地球のような惑星が出来ました。
今回「リュウグウ」で採取された小石を調べることで、我々石屋が普段お世話になっている大地から掘り出された石の誕生についても、新たな発見があるかもしれません。
※1:太陽とその周りを周回する惑星などの天体で構成されている天体の集団。
さらにこの調査では、リュウグウには有機物(炭素を含む化合物)や水を含む鉱物が多く存在すると考えられることから、地球の水はどこから来たのか、生命を構成する有機物はどこでできたのかなど、生命の起源の解明に一歩近づける可能性があります。小さな石には、壮大な宇宙の記憶が秘められているのですね。
「私たちはどこから来たのか」という生命そのものの起源を解き明かしたいという欲求。それは途方もない話題のように思われるかもしれませんが、先祖と向き合うことで生命の大切さを実感し、自分のルーツに立ち返るお墓参りとも通じるものが…なんて思うのは、石屋だからかもしれません。
2024年の現在、はやぶさ2は新たな宇宙探索の旅へ出ています。数年後にはまた嬉しいニュースが聞けるといいですね。
野球少年が願いを託す聖地
2024年3月31日
こんにちは。愛知県豊田市の中澤⽯材店です。
世界で活躍する日本人!といえば、今話題のメジャーリーグ、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手がいます。
投手と打者の二刀流でアメリカの野球界を席巻し、昨年はシーズンMVPにも選ばれました。21年以来2年ぶり2度目の受賞となり、大リーグ史上初、前回に続き満票でのMVP選出。同じ日本人として、とても誇らしいですね。
一方で期待されながらも受賞に至らなかったのがサイ・ヤング賞です。これは大リーグの年間最優秀投手に贈られるもので、全米野球記者協会に所属する記者の投票によって選出されます。
サイ・ヤングは1890〜1911年まで活躍し、歴代最多の511勝を挙げた投手です。
「サイ」は、188cmの長身から投げ出されるボールが、サイクロン(暴風)のようにうなりをあげる剛速球だったということから付けられたニックネームです。
ヤングのお墓はアメリカのオハイオ州にあります。5月の最終月曜日の「メモリアルデー(戦没将兵追悼記念日)」に、ボールを供えると野球が上達すると伝えられ、多くの子どもたちが訪れるそうです。彼に敬意を表して作られたサイ・ヤング・メモリアル・パークには記念碑もあり、彼の功績を伝えています。
私たち石屋は、石のボールを置いたお墓、大会優勝の記念碑など、野球にちなんだお仕事や、その他にもたくさんの出来事や功績を後世に伝える事に携わることがあります。込められた想いや記された記録はどれも素晴らしいもの。
新しいことを始める際はその道の先人のお墓や記念碑を訪ねて上達を願ってはいかがでしょうか。大谷選手もアメリカで、歴代名選手のお墓を訪ねたかもしれませんね。
地球上で最古の花木 ~木蓮~
2024年2月29日
こんにちは。愛知県豊田市の中澤⽯材店です。
だんだんと暖かくなってきましたね。今日は春になると桜とともに美しい白色や紫色で街中を彩る「木蓮-もくれん」の話題をお届けします。「木蓮」は「マグノリア」の名前でも有名ですね。空に向かって大きな花をたくさんつける花木で庭木や街路樹としても人気があります。
木蓮の名前は「蓮(ハス)」という花に似ていることに由来しています。この蓮という花は仏教に関わりが深く、仏や慈悲の象徴とされています。そんな蓮に似た花を咲かせる木蓮は「天国に咲く蓮の花」とも言われ、中国では寺院や宮殿などに木蓮を植える風習があるそうですよ。
木々に大きなつぼみがたくさんついた姿は、まるでたくさんの小鳥がとまっているように華やか。開花時期に近寄ると、上品で優雅な甘い香りを楽しむこともできます。
つぼみの先が一斉に北を向くことから、方向指標植物(コンパス・プラント)とも言われています。つぼみがふくらんだ木蓮を見つけた時はちゃんと北を向いているか、確認してみるのも楽しいですね。
原産地は中国南西部。もともと中国では漢方として扱われており、日本にも平安時代以前に頭痛や鼻炎の薬として伝わりました。
また、木蓮は地球上で最古の花と言われています。恐竜が活躍していた白亜紀の地層からモクレン属の化石が発掘されており、1億年以上も前から今と変わらぬ姿で咲き続けているそうですから、とても興味深いですね。その花の大きさや独得のカタチは恐竜たちにぴったり。恐竜たちにとって春の花と言えば木蓮だったのかもしれないと思うと、面白いですね。